展示概要
当時の人が称した「袖珍本」、「口袋書」、或いは「掌中書」は、いずれも古代の「巾箱本」です。外形はとても小さく精緻にできていて、持ち運びに便利なため、学者や民衆の間で人気があり、コレクションとして収蔵されました。最も早期に出現した巾箱本を遡ると、現在証明できる史料によると、《南史‧斉衡陽王鈞伝》から始まったとされています。
歴史書には、南朝斉の皇族である蕭鈞(473-494)は曾て、「自らの手で五経を書き写し、部を一巻となし、巾箱に置く」と記載されています。これが世に流伝し、諸王は争って、これを真似たため、この時から「巾箱五経」が始まりました。この種の小型の袖珍本(ポケットブック)は精巧で、文人により、専ら頭巾の箱の中に置かれ、持ち歩きに便利なだけではなく、その上、収蔵、閲読しやすかったため、巾箱本と呼ばれるようになりました。蕭鈞、或いは巾箱本を作成した第一人者ではなくとも、「巾箱五経」は、多くの人々の学習の手本となり、一時非常なブームとなり、流行の先駆けとみなされました。その後、南朝、梁の元帝蕭繹(508-555)がこれをまねて、作り出した範圍や数量は、全て蕭鈞を超えており、当時流行した巾箱本は、文人だけが学ぶ儒家の経典に限られることはなくなり、史部、子部、集部類の図書類にも及び、多様な発展を遂げました。
木版印刷が出現した後、書籍を書き写すことは次第に衰えていきました。唐から宋にかけて、木版印刷は書き写しに取って代わり、書籍出版的の主要な形式となりました。当時の出版市場は、勢いよく発展し、発行の内容は経書と史書の専門書、詩文歌賦、科挙用書、及び旅行案内書、小説・戯曲、医薬用書等までに広く及びました。巾箱本は、小さくて持ちやすい点から、良く流通しましたが、最終的には新たな形式が出現し、文人の注目を浴び、出版市場のもう一つの寵児になったのです。
「巾箱」と言う名は、南朝の斉から南宋の時代まで用いられ、明・清の時代になり、「袖珍」の名に取って代わりました。今日に至り、袖珍小本の形制の発展趨勢は、携帯に便利だと言った実用性への注目が、だんだんと精巧な趣を持つ装飾性に向けられています。「巾箱本」の名称は再度広く人に知られることはありませんが、袖珍本は、今でも大衆に人気のある携帯用の書物の形式となっています。この度の展覧の趣旨は、巾箱本の源の歷史、装丁形式、版のサイズと内容の相違を5つのコーナー「巾箱本五経」、「古人展書読」、「皇家蔵袖珍」、「大書配小書」、「巾箱走四方」に分けて展覧致します。参観なさる皆様には、当展覧を通して、昔の人が書籍を小さな箱に収蔵した文化の背景をご理解いただけるだけではなく、普段旅行をする際、書物は必須のものであり、それを広げて朗読したり、或いはそれを鑑賞する文化の現象も見ることができます。これだけにとどまらず、文物を鑑賞なさる際、古を以て今を証明し、袖珍本(ポケットブック)が、図書の発展の過程の中で、繰り広げられた異なる姿もご覧いただきます。