展示概要
「紫砂器」は、現在の江蘇省宜興市近辺で産出された、きめ細やかで鉄分の含有量が高い陶土を使った焼き物で、板状にした粘土を繋ぎ合わせて成形してから、約1100度~1200度の高温で焼成したものです。宜興の陶工が制作した作品の中で、明清代の文人たちに絶賛されたのが紫砂壺です。周高起(?-1654)は『陽羨茗壺系』に「この百年で茶壺(急須)は銀錫製と福建、河南の磁器が除外され、宜興の陶器が尊ばれるようになった。」と記しています。また、李漁(1611-1680)は『閒情偶寄』で茶壺を評して「陽羨(宜興の旧地名)の茶壺を超える逸品はない。」と述べています。乾隆帝(1711-1799)も「烹雪畳旧做韻」という詩に註記を付して「宜興の磁壺で雪を沸かして入れた茶がとりわけ味わい深い。」と書き残しているほどです。こうした記録から推測すると、紫砂壺は文人墨客の茶寮(茶室)のみならず、一般庶民や皇帝の茶席でも好んで使われた名品だったことがうかがえます。
この度の特別展では「紫砂風潮」と題して、関連の陶磁器を4章に分けてご紹介します。第1章の「宮廷の茶器」では、極めて貴重な宜興胎画琺瑯茶器を展示いたします。第2章の「琺瑯彩の魅力」では、磁胎や金属胎、ガラス胎の画琺瑯などから、宜興胎画琺瑯茶器制作の背景にあった、工芸や文化面の交流を解説します。第3章の「宜興・歐窯と広窯」では、宜興窯製と伝えられる作品を通して、過去から現在までの宜興窯製品の変遷過程を明らかにします。第4章の「茶・饗宴」では、本院所蔵作品を用いて皇帝の茶席を再現します。清朝宮廷の喫茶の情景がご想像いただけるでしょう。
本特別展を通して故宮所蔵の紫砂器に関連する文化的意味や背景がおわかりいただけるよう期待しています。紫砂器の流行から生まれた茶にまつわる物語や、極めて高度な工芸技術をじっくりとご鑑賞ください。