展示概要
「書法」は文化史において特殊な芸術様式を形成しています。日常的な書写に用いられただけでなく、悠久の昔から完整され独立した芸術理論体系が確立されていました。書法発展の道筋や審美的基準、作品への評価などは、常に注目を集める課題であり続けました。この度の特別展では、異なる時代の篆書を選出し、その風格の変遷や観賞のポイントについてご紹介します。
歴代の篆書は実に様々で、甲骨文や金文、陶文、盟書、簡帛書、璽印文、銭幣文、石刻文字などがあり、大篆と小篆に大きく分けられます。秦代に文字が統一される前は一般に大篆と言われていました。秦から漢にかけて発展した隷書が成熟し、日常使用する書体として定着すると、篆書は主流から退いて特殊な装飾文字となり、南北朝以降にそこからまた楷書と行書が発展しました。清代になると、三代秦漢古文字が立て続けに出土したのに加え、堅実な学風の影響もあり、書家たちが古代の筆法を改めて探求するようになった結果、篆書の書写にも新たな境地が切り拓かれたのです。
古めかしい篆書はとうの昔に日常の使用とは無縁の文字になっていましたが、その高度な芸術性により途絶えることなく継承され、命を繋ぐことができたのです。篆書の筆法は簡潔で、線の起伏も変化に乏しいものですが、その結構は変化に富み、方正或いは扁平な形であれ、不規則な形であれ、字形を作りやすく、多種多様な素材に用いることも容易にできます。唐代の書論家孫過庭(647頃-690頃)が述べた「篆尚婉而通」(篆は婉にして通なるを尚ぶ)という表現は、篆書を鑑賞する際に重要となる基準を明確に示しています。篆書は「婉にして通なる」境地に達せねばならず、線の質感や滑らかさに篆法特有の空間配置を合わせてこそ、多種多様な美しさが表現できるのです。